《原爆症認定集団訴訟@被爆64年》 の最新情報

広島・長崎に原爆が投下されて60年+α。今、被爆者に癌などさまざまな病気が発症しています。被爆者が「原爆症認定」を求めておこした原爆症認定集団訴訟について、弁護団から最新情報を提供します。

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ここがおかしい 厚労省のウェブサイト


    厚生労働省の原爆症認定をめぐる最後の抵抗と記録集
   ~「原爆症認定集団訴訟  たたかいの記録」発行に当たって~
2011年8月3日
原爆症認定集団訴訟 弁護団  内  藤  雅  義

第1、初めに(「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」と厚生労働省のHP)

  現在「原爆症認定集団訴訟の原告に係る問題の解決のための基金に対する補助に関する法律」(原爆症基金法)の成立施行を受けて、その付則2項による「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第十一条の認定等に係る制度の在り方について」の「検討」が「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」(「原爆症認定制度検討会」あるいは「検討会」)において被爆者代表も参加して行われている。
  去る7月15日に開催された原爆症認定制度検討会の第5回会合では、日本被団協事務局長である田中煕巳委員と疾病・障害認定審査会の原爆被爆者医療分科会(「医療分科会」)元委員である草間朋子委員及び厚生労働省の事務局との間で、原爆症認定に用いられているDS86ないしDS02において、残留放射線の評価をめぐって議論がなされた。
  田中委員は、裁判結果にも係わらず、被爆者医療分科会では誘導放射線ないし放射性降下物という残留放射線(従って当然に内部被曝も)を殆ど無視ないし軽視していると主張した。これにに対し、草間元委員及び事務局はDS86及びDS02は、残留放射線を考慮しているとの発言をした。
  更に加えて 最近になって更新追加された厚生労働省の原爆症認定に関するHP(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/15e.html)によると、原爆における残留放射線は、無視できる程度の線量であり、否定の根拠が非常に科学的であるかのような記載がされてる。そして、このホームページの冒頭には、全国民が戦争被害を受けたのに、被爆者だけが特別の援護施策されているのは、原爆には原爆特有の「放射線」があったからであり、被爆者には健康管理手当などもあるから、原爆症認定については、「原爆放射線症」のみが対象であり、放射線起因性を外してしまうと原爆被爆者が一般戦災者よりも特別に援護する理由がなくなってしまうと述べられてる。
  しかし、これら残留放射線の過小評価や無視、その科学性をめぐる厚生労働省の主張、更には放射線影響の範囲を他の要因から峻別する考えは、いずれも原爆症認定訴訟で大きく争われ、最終的に裁判所から批判を受けてきたものである。それにもかかわらず、未だに厚生労働省がこのような主張を強調していることは、正直驚きである。本来検討会で検討されるべきことは、裁判所の判断を受けて司法と行政の乖離をなくすことであった筈であるが、検討会における議論、そしてHPの記載をみると、厚生労働省にはその乖離をなくすつもりがないと感じざるを得ない。
  今回、「原爆症認定集団訴訟ーたたかいの記録」が発刊されるに当たり、上記検討会における田中委員と被爆者医療分科会委員及び厚生労働省事務方との間での議論となり、また、厚生労働省のHPにおいて、強調されているDS86及びDS02の問題、そして、原爆症認定における他の要因との共同ないし複合の問題について批判を行うこととする。


第2、残留放射線と原爆症認定
1、残留放射線問題について
  第5回検討会において、厚生労働省では、事務方からは、「システム自体、残留放射線、放射性降下物を考慮して作られた」という発言があり、また、草間委員からは、「DS86では、直接放射線だけでなく、誘導放射線および放射性降下物についても線量評価をしている」という趣旨の発言があった。
  また、厚生労働省のHPでは、ヒロシマ、ナガサキで問題となった残留放射線は誘導放射線が中心であり、それも1日後には、大きく減少したという記載となっている。つまり放射性降下物は、微量であるとしている。そこで、これらの問題点について以下指摘する。

2、DS86及びDS02の意味と線量割当 
  DS02及びDS86は、もともと、放射線影響研究所で行われている寿命調査(LSS)や成人健康調査(AHS)の疫学調査のために調査対象者となる被爆者に線量を割り当てるためのものである。その意味では、疫学調査上では、「初期放射線しか考慮していない」のである。すなわち、DS86の日本側責任者であった田島英三氏は日本原子力学会誌29巻8号690頁以下で「日米原爆線量再評価委員会報告書について」と題する論文で、DS86の解説を行っているが、その中で「最後に残留放射能について簡単に触れることとする」とした後、「放射性降下物が特に多かったのは、広島では己斐・高須地区、長崎では西山地区であった」とした上で、「これらの地区で人々が実際に被曝した線量を推定するには、その人々お実際の行動を知らなければならないが、そのようなデータは現在残っていない。したがって、DS86には、その線量計算は含まれていない」と記載している(p693)。
  このような行動経過が必要であるという点では誘導放射線でも同様であり、誘導放射線も疫学調査上は考慮してない。このことは、原爆症認定集団訴訟の中で、東京と広島の弁護団が放影研に対して行った照会において、原爆炸裂当時、広島、長崎市内にいなかった市内不在者と呼ばれるNIC(Not in the city)の内、早期入市者について、被曝線量を割り当てているかという質問に対して、放影研は割り当てていないと回答していることからも分かる。
  現在、ICRP等世界的な放射線防御基準の基礎となっている放影研のデータは、実質、被爆者同士を比較する制度となっており、全体として放射線影響が過小評価になる傾向を否定できないのである。

3、DS86第6章について
  このように、放影研の疫学調査において、残留放射線を割り当てておらず、そのための批判が、1977年に開催されたNGO国際シンポジウムや、海外の学者からも批判があったことからその検証のために記載されたのが、DS86の第6章「DS86の被曝線量」であった。すなわち、疫学調査において、どの程度、残留放射線の調査を行わないことが調査結果を歪める可能性があるかを検討するために検討されたのが、DS86の第6章だと思われる。そして、その部分の記載に基づいて、審査の方針においては、「認定申請者」の線量評価が行われていた。ただ、上記のような経過から、放影研では、できるだけ残留放射線の影響を低く見たい心理が働くのか、この部分の記載は、できるだけ残留放射線の影響を小さく見ておきたいとしていると感じざるを得ない。
  このような視点から、田中委員は、第5回の検討会で「DS86は、黒い雨の限られた放射線しか考慮していない」と発言し、また、「残留放射線は、1km以内の短半減期の残留放射線だけ」と述べ、更に「特に放射線降下物による残留線をどのように判断しているのか」という質問をしたのである。
  そこで、司法と行政との乖離で問題となる残留放射線について、裁判所はどのように判断したのであろうか。

4、残留放射線の評価の判例の指摘する問題点
(1)初めに
  認定申請者の残留放射線の評価に用いたDS86第6章から導き出した旧方針では、放射性降下物については、広島の己斐・高須地域、長崎の西山地区以外はこれを考慮せず、また、誘導放射線についても、被爆後間もない時期の爆心地付近(1km以内)しか考慮していない。そして、原爆症認定集団訴訟の中で、被告国側は、このような旧方針に記載された以外の残留放射線の評価から、遠距離被爆者や入市被爆者に脱毛や下痢、歯根出血等の急性症状が疑われる症状があっても、DS86に記載されている調査結果が正しいのであるから、これらの症状は急性症状ではないと主張したである。そして、このような主張を前提に、個々具体的な被爆者の症状経過、更には被爆後の体調不良等は考慮する必要がないというのが、被告国側の応訴態度であった。そして、このような対応は、現在の新しい審査の方針下における認定においても変わっていないことが前回の事務方や或いは、草間元委員の発言、更に今回のHPの記載から伺われるのであり、まさにこの点が問題とななる。しかし、このような対応は、裁判所の判断とは、大きく異なるものといわざるを得ない。
  以下各地の判決で総論に関する証人の尋問がなされた当初の大阪地裁、広島地裁、その後の熊本地裁、東京地裁、東京高裁判決から指摘することとする。

(2)放射性降下物について
 ア、放射性降下物の降下地域について
 放射性降下物については、広島の己斐・高須、そして長崎の西山地区に放射性降下物が降った地域が限られる国側の見方については、多くの判決がその問題点を指摘している。例えば、
 (大坂地裁判決)
「原子爆弾の爆発による核分裂生成物の生成,輸送,降下及び沈着に至る過程及び機序にかんがみると,広島における己斐,高須地区以外の地域及び長崎における西山地区以外の地域には核分裂生成物の降下がなかったとするのはかえって不自然,不合理であり,量の多少はあれ核分裂生成物の降下が存在したとみるのが素直」
 (東京地裁判決)
「放射性降下物の生成過程,すなわち,原爆炸裂後,爆弾内部の核分裂生成物,未分裂の核分裂性物質,誘導放射化された原爆の器材物質がキノコ雲を構成しており,キノコ雲の周辺部では下降気流が支配的であることからすると,論理的には,広島の己斐・高須地区,長崎の西山地区以外の周辺部にも,放射性物質が降下した可能性があるといえる。このことは,昭和20年8月11日の大阪調査団の初期調査で,宇品(甲8の1によれば,爆心地の南南東3ないし5キロメートル)で八丁堀(爆心地の東0.5ないし1キロメートル)と同程度の放射線が観測されている一方,己斐地区内でも自然放射線以上の放射線が測定されなかった箇所もあること(甲78資料14),同月9日ころにAEらが爆心から5キロメートル以内で採取した試料22個について,AWらがセシウム137の放射能の精密測定を行ったところ,爆心から1~1.2キロメートルより外側で放射能が検出され,サンプル11(爆心地の北方3600メートル),同25(爆心地の東方3000メートル)などでも放射能が検出されたこと(甲169)からも窺え,場所による濃淡はあるものの,広島の己斐・高須地区,長崎の西山地区以外にも,周辺部の広い地域に放射性物質が降下した可能性があると考えるのが合理的である。」
 (熊本地裁判決)
 「原爆の物理学的過程・・に照らすと、核分裂生成物、未分裂の核分裂性物質(広島原爆の場合は、ウラン235,長崎原爆の場合は、プルトニウム239)及び誘導放射化された大気中の原子核などが、被告らも自認するとおり、上記各地区以外の地域においても、量の多少こそあれ、放射性降下物として降下したものと考えられる」
 イ、黒い雨の地域
 黒い雨の地域について、被告国側は宇田雨域を主張し、しかも、黒い雨の降った地域しか放射性降下物の影響はなかったと主張したが、原告は増田雨域を主張し、裁判所は原告側にしたがったた認定をしている。
  (広島地裁判決)
 「原子爆弾の作用,原爆放射線,原子爆弾の被害に,爆心地付近から飛散した降下物が遠くは30km北方,宇田雨域より広範囲にわたって降下していたとの報告があること(前記ウ(ア),甲A36)なども考えあわせると,少なくとも,増田雨域で雨が降ったとされる範囲について,雨が放射性降下物を含んでおり,その雨に濡れた者が放射性降下物による被曝を受けた可能性は高いものと認めることができる。更には,原子爆弾の作用・放射線・被害や上記飛散した降下物の範囲などを考えると,仮に降雨がなかったとしても,上記雨域の周辺においては,例えその量は多くはなくとも,放射性降下物が全く存在しなかったとは直ちには断定できないと考えられる。
(熊本地裁判決)
「放射性降下物の範囲に関しては、原爆投下直後の広島における調査結果として、宇田らの調査結果・・である宇田雨域(長径29キロメートル、短径15キロメートルの長卵形の雨域と増田の調査結果・・である増田雨域(爆心地より北北西約45キロメートル、東西方向最大幅約26キロメートル、面積約1250平方キロメートルの雨域であり、宇田雨域の約4倍に相当する)が存在する。・・・増田雨域は、・・・降雨の程度については置くとしても、降雨の存在を示すものとしては、相当の信用性があるもの認めることができる。
  そして、静間教授らの・・調査結果において・・・セシウム137が検出されたことに照らせば、静間教授らも指摘するとおり、・・・放射性降下物を含有する降雨の範囲は、宇田雨域よりも広い範囲であったことが推認されるとともに、増田雨域が裏付けられたということができる」
「・・放射性降下物は、量の多少こそあれ、増田雨域のみならず、少なくとも爆心地から増田雨域の周辺地域に至る範囲において、相当量降下したものと考えられ、そうすると、長崎でも、少なくとも爆心地から相当離れた地域にいたる範囲において、相当量降下したものと考えられる。」
 ウ、測定値の問題
 更に加えて、放射性降下物の降った範囲の問題だけではなく、測定された測定値の問題も存在しています。
  (東京地裁判決)
「放射性降下物の影響が認められる地区は,広島の己斐・高須地区,長崎の西山地区に限定されるとすることに十分な根拠があるといえるかどうかには疑問があるものというべきであるが,それに加え,これらの地区における放射性降下物による被曝線量の算定についても,疑問の余地があるものというべきである。すなわち,被告らは,爆発1時間後から無限時間までの地上1メートルの位置での放射性降下物によるガンマ線の積算線量は,広島の己斐・高須地区で0.006ないし0.02グレイ,長崎の西山地区で0.12ないし0.24グレイであったと主張するが,その根拠となっているDS86報告書の計算値は,昭和20年9月17日ころの台風の影響を考慮してないことを始めとして,様々な留保が付された上での数値にすぎないことを軽視したものと評さざるを得ない。」
(熊本地裁判決)
「DS86等報告書においても、原爆爆発後の3か月間に、広島では900ミリ、長崎では1200ミリの大量の降雨があり、また、広島、長崎ともに、昭和20年9月17日の台風に遭い、広島については同年10月9日に2回目の台風に遭っており、かかる風雨の影響により、地上に堆積した放射性降下物が散乱した可能性があるところ、己斐・高須地区、西山地区における放射性降下物による外部被曝線量の計算に用いられた上記線量率測定値は、風雨の影響による補正なしに使用されていると指摘されている。」

(2)誘導放射線について
誘導放射線についても、土壌について初期放射線から一定の配慮は行っているものの、様々な核種による様々な形の被曝については、十分な検討がなされていない。また、測定方法についても、放射性降下物と同様の問題が指摘されているのである。
(広島地裁判決)
「誘導放射能の算定についてはいくつかの算出方法がありうるだけでなく,誘導放射能の値は地上1mの空中の位置における放射線量を計算したものであって,一般に線量は線源からの距離に反比例するといわれることなども考えると,被爆者が誘導放射化された物質,塵埃や人体などに直接に接触し,もしくは,吸入及び摂取し,あるいは傷口から体内に取り込むなど,具体的な被曝の態様によっては,被爆者の受ける被曝線量は容易にこの基準値よりも高いものとなり,また,異質の被曝を受けることになりうることは銘記しなければならない。」
(東京地裁判決)
「誘導放射能についても,初期放射線の線量から推定計算がなされているものの,半減期の短い核種を対象とする早期の直接測定はなされておらず,早期の入市者の被曝線量が推定値より大きかった可能性がないわけではない。
   人体の誘導放射能についても,限定された測定方法及び試料によるものではあるが,AFらの生体誘導放射能の調査によれば,特に被爆間もない時期には強い放射能を帯びていた可能性があり,これと異なる報告も見出しがたいから,残留放射能による被曝の原因として無視してよいかどうかには疑問が残る。」
(熊本地裁判決)
「審査の方針別表10の値は、中性子線によって誘導放射化された元素として、土壌中の元素のみが考慮されて算出されたものであるところ、実際は、土壌中の元素のみならず、DS86等報告書でも指摘されている瓦やれんが等の建造物の材料のほか、人体などの中の元素についても、中性子線によって誘導放射化さてたものが存在する。また、審査の方針別表10の値は、前示のとおり、地上1メートルの位置におけるガンマ線の線量率に基づいて算出されたものであるところ、放射線の線量は、線源からの距離から反比例すること・・からすれば、誘導放射化された物質が人の身体や衣服に付着した場合には、その線量率は、地上1メートルの位置を前提とするものより大幅に高いものとなる。」

(3)急性症状について
 そして、これらと合わせて、訴訟中に争われたのは、被爆者に認められた多くの急性症状の記録の存在である。被告国側は、急性症状には、しきい値(脱毛3グレイ等)があり、記録に残されている線量からみてこれらは放射線によるものではないと一貫して主張した。しかし、このような被告の主張は裁判所の受け入れるところとはならず、内部被曝の点も含めて、裁判所はこれらの症状の多くを原爆放射線による急性症状と考えられると判断した。すなわち、被曝距離や入市時期のみから判断せず、個々の状況に応じて判断するという手法を示したのである。
(大阪地裁判決)
 「原爆投下当時広島市内又は長崎市内にいなかったいわゆる入市被爆者について脱毛,歯齦出血,白血球減少症など放射線による急性症状としか考えられない症状が生じている事実は否定することができないのであって(中には重篤な症状を示すものも散見されたことは,これらの証拠や原告X8本人尋問の結果等からもうかがわれる。),上記「ヒロシマ・残留放射能の四十二年[原爆救援隊の軌跡]」中の「賀北部隊工月中隊の疫学的調査」においても,このような調査対象者の中に,たとい若干名であろうと急性放射線症状(脱毛,歯齦出血,白血球減少症など)を示した者があったと思われることは,被爆当時の低栄養,過酷な肉体的・精神的ストレスなどに起因するものが混在していたにせよ,通常この程度の外部被曝線量ではこのような急性症状がないと考えられていることからすると興味深いものがあり,もし,放射線による急性症状とすれば,特殊環境下における人体の放射線に対する抵抗性の低下によることも考えられるし,また,飲食物による内部被曝の影響の可能性も否定し切れない旨記載されているところでもある。」
(広島地裁判決)
「遠距離被爆者や入市被爆者など,審査の方針に掲げる初期放射線,残留放射線及び放射性降下物による被曝線量だけからすると到底放射線障害を引き起こすとは思われないごくわずかな被曝線量しか算出されないにもかかわらず,現実には,原子爆弾の放射線によるとしか考えられない各種の急性症状や白血病などに罹患するおびただしい症例が客観的に存在することが公的な資料からも広く認められている。
 これに対して,被告らは,遠距離被爆者や入市被爆者に現れたといわれる急性症状は心因的あるいは精神的なものであると主張するが,爆心地から離れるにしたがって発症率が漸減していること,遮蔽の有無によって発症率が異なること,入市被爆者についても爆心地付近への出入りや滞在時間の長さによって差が出ることからすると,上記急性症状はそのほとんどが放射線の影響によるものと考えるのが相当である。」
(東京地裁判決)
「①初期放射線量の評価については,遠距離において過小評価になっている可能性を否定し去ることはできないし,②放射性降下物については,DS86による推定以上にその影響が及んでいる可能性があり,③誘導放射能についても,DS86の推定以上の影響が及んでいた可能性を否定できない上,人体の誘導放射能等,DS86において考慮の対象となっていない態様による被曝の可能性も否定し去ることができず,④内部被曝についても,これを考慮する必要がないものと断定してしまえるだけの根拠があるかどうかは疑問であるといわざるを得ない。
 このように考えていくと,広島,長崎の被爆者に,DS86による計算値を超える被曝が生じている可能性がないと断定してしまうことはできないのであって,DS86による線量評価の合理性は,被爆者に生じた急性症状等を合理的に説明することができるかどうかという観点からも検証する必要があるものというべきである。別の言い方をすれば,客観的な資料に基づく合理的な判断として,放射線による急性症状等が生じていると認められる事例が存在するのであれば,その事実を直視すべきなのであって,それがDS86による線量評価の結果と矛盾するからといって,DS86の評価こそが正しいと断定することはできないものというべきである。」
「先に掲げた被爆者に対する数々の調査報告を踏まえると,遠距離被爆者,入市被爆者のいずれについても,放射線に起因する急性症状が現れていたものと判断することには十分な合理性があるものというべきである。そして,この結論は,DS86による線量評価とは整合するものではないが,先に検討したDS86の問題点に照らしてみれば,その原因は,むしろDS86の側にある可能性も十分にあり得るものというべきであり,少なくとも,DS86の線量評価を根拠として,被爆者に生じた急性症状が放射線に起因するものではないと断定することは到底困難であるといわざるを得ない。そうすると,放射線起因性の判断に当たっては,遠距離被爆者,入市被爆者にも放射線に起因する急性症状が発症した事例があること,したがって,遠距離被爆者,入市被爆者の中にも,相当程度の放射線被曝をした者が存在することを念頭に置く必要があるものというべきである。」
(熊本地裁判決)
「入市被爆者に脱毛、発熱及び下痢などの放射線被曝による急性症状と同様の症状等が一定割合で生じたことを示す多数の調査結果があり、しかも、全体的な傾向として、入市被爆者が1.0キロメートル以内の地域に滞在した時間が長いほど、それらの症状の発症率が高くなる傾向があることに・・照らすと、入市被爆者に生じたそれらの症状の大半は、残留放射線被曝による急性症状と認めるのが相当であるところ、これは、残留放射線による外部及び内部被曝線量が急性症状を発症させるほど、多量であったことを示すものということができる」
(東京高裁判決)
「DS86(あるいはその後継モデルであるDS02)について,その存在意義自体を否定することはできないし,初期放射線の被曝線量評価については他に手段はなく,これに誤差があることを考慮しつつ原爆症認定に当たって利用することは相当であるといえるが,残留放射線(誘導放射線,放射性降下物)についての影響の程度について,審査の方針が定めたように機械的に線量評価をしてよいかどうかについては疑問があり,被爆者の内部被曝の影響の程度については,専門家の間で意見が分かれるところであり,内部被曝の影響が無視し得るものであることを前提とした原爆症認定審査は相当とは考えられない。そして,急性症状に関する検討も加えると,被爆者に現れた急性症状に関する調査の結果からみると,審査の方針が定める線量評価の手法は,特に残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物)及び内部被曝の問題に関する点で過小評価に陥る危険があり,これをそのまま是認することはできない。以上によれば,審査の方針の基準に基づいた被曝線量を誤りのないものであることを前提に判断することはできないという結論に達する。」
「したがって,放射線起因性の判断において放射線被曝の存在は不可欠な要素であり,その定量的な判定が望ましいとはいえるが,定量的な判断ができるという前提で判断基準を組み立てることには無理があるというべきであり,この点において審査の方針が採用した被曝線量の評価方式の全部が精密な意味においてすべて正しいといえるかについては疑問を残すものがあるといわざるを得ない。」 

(4)総合判断の必要
  以上のような点から、以下のような総合判断をしているのである。
(近畿訴訟大阪地裁判決)
「放射線被曝による人体への影響に関する統計的、疫学的及び医学的知見を踏まえつつ、当該申請者の被爆前の生活状況、健康状態、被爆状況、被爆後の行動経過、活動状況、生活環境、被曝直後に生じた症状の有無、内容、程度、態様、被爆後の生活状況、健康状態、当該疾病の発症経過、当該疾病の病態度、当該疾病以外に発生した疾病の有無、内容、病態などを全体的、総合的に考慮して、原爆放射線被曝の事実が当該申請に係わる疾病の発生を招来し得る高度後蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断すべきである。」
(広島訴訟広島地裁判決)
「疾病等についての放射線起因性の判断にあたっては、疾病発生等の医学的機序を直接証明するのではなく、放射線被曝による人体への影響に関する統計的、疫学的知見に加えて、臨床的、医学的知見も踏まえつつ、各原告後との被爆状況、被爆後の行動・急性症状等やその後の生活状況、具体的症状や発症に至る経緯、健康診断や検診の結果等の全証拠を、経験則に照らして全体的、総合的に考慮した上で、原爆放射線被曝の事実が、当該疾病等の発生又は進行を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを、法的観点から検討するのが相当である。」

第3、放射線被害と他の要因との共同(峻別の困難)
 最近掲載されるようになった厚生労働省の原爆症認定に関するHPには、、全国民が戦争被害を受けたのに、被爆者だけが特別の援護施策されているのは、原爆には原爆特有の「放射線」があったからであり、被爆者には、健康管理手当などもあるから、原爆症認定については、「原爆放射線症」のみが対象であり、放射線起因性を外してしまうと原爆被爆者が一般戦災者よりも特別に援護する理由がなくなってしまうと述べられてる。
 そして、このような観点から、原爆症認定を極めて厳しく認定するとともに、起因性に関しては、他の要因(外傷、ウィルス、その他)との共同ないし複合で症状が悪化、促進した場合には、否定的に判断するという方針を採ってきた。
 しかし、外傷や熱傷との関わりで言えば、原爆は放射線が熱線や爆風と別々に被爆者を襲う訳ではなく複合して襲うのであり、また、晩発性影響との関係で言えば、癌やその他晩発性影響とされる疾患は、被爆後数十年という長期間経過後に出現するのが一般であり、これらを考えると他の要因と複合、共同して出現するのが一般である。
 これらを考えると、被爆者を救済するという姿勢で望むのか否か、すなわち、国家行為の被害者として国家の責任で救済するという国家補償的立場で望むのかが問われることになる。このような視点は、松谷訴訟以来争われて来た点なのである。
 また、同様に、国は要医療性についても、放射線の直接的影響による傷病に関する要医療性だけを問題として、放射線の影響により疾患となり、その治療のための措置で治療が必要となっても起因性ないし要医療性を認めないという立場を取ってきた(例えば、胃癌で胃を摘出し、胃切除後症候群により、医療を要する状態となってもそれは原爆放射線による要医療性ではないという立場)をとってきた。
 ところが、原爆症認定訴訟を通じて、これらの点も大きく、変更を迫られたのである。
 それにもかかわらず、極めて限定的に判断しようとしている点において、国の姿勢は変わっていないと言わざるを得ない。
 そもそも、国の姿勢は、国家行為としての戦争による民間人被害について、広く救済を図っている欧米諸国と大きく異なっている点で、そもそも、民主主義国家の発想として歪んでいるばかりではなく、原爆症認定に関する裁判所の判決とも基本的姿勢において大きく乖離したものと言わざるを得ない。
                                    以 上
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